2030年

朝、目が覚める。

古びたベッドから起き上がり、洗濯機を回す。

 

今の洗濯機は大きく二分されていた。Wi-Fiに接続してリモートで操作できる高機能路線と、2020年と何も変わらないボタン式だ。

 

僕はWi-Fiに接続したところでしょうがないと言って安い洗濯機(安いと言っても7万はした)を使っている。

 

今日の天気は晴れ時々スコール。最高気温42℃。最低気温30℃。異常気象も日常と化し、普通となってしまった。

「また部屋干しか…」そう呟くと、エアコンを除湿強で回す。

 

2020年から始まった疫病禍はいまだに続き、日本はダラダラとマスク強制社会を続けている。

それを悪いとは思わないしいいとも思わないが、マスクが下着化し、人々はマスクの下を見せないようになり、表情筋は使われなくなり緩んでしまった。皆むすっとした顔である。

 

おまけに最近は「風邪のように感染する、内臓を腐らす病気」まで流行りはじめた。

この病気のことはおいおい話すとしよう。

 

 

あらゆるものにお金がかかり、マスクにストラテラに電気代に…

世界では6Gなるものが導入されたが、日本はいまだに5Gすら入らない場所があった。

 

僕は家のポンコツWi-Fiを一瞥し、ガタガタ止まるYouTubeを流していた。

 

朝ごはんは一昨日の残りのお惣菜とご飯だ。

世界的な異常気象は食糧の高騰を招き続け、最近では米ですら高くなってきた。

 

 

 

申し訳程度の洗濯物を干し、出かける。

 

巷では過度な環境保護の責任を一般市民に追わされ、一人ひとりに目標が課されるようになった。守れないと税金だ…と絶望し、毎日歩きで駅まで行く。駅の駐輪場にいつも停めていた僕の一台のバイクの亡霊を見る。環境税によって売らざるを得なくなったバイクだ。

 

にじみ出てくる涙か暑さによる汗かわからない液体をぬぐい、駅に入る。

何も変わらない駅、本数の減った通勤新線。

 

最早リモートでする仕事以外は全て古のブルーワーカーの扱いとなっていた。

 

数駅乗ると団地海岸駅に着く。ここは団地が並んでいるのだが、もう築60年近い団地が足場を組まれ、修繕の真っ最中であった。

ここですらもう取り壊すお金もなく、ダラダラと残されている。

 

ここで僕は携帯とスマートメガネをかけた。

2020年ごろから開発され始めた「ウェアラブル端末」は腕時計-メガネ-コンタクトとだんだんと身体に近づき、身体を蝕んでいった。

 

いまやイヤホンなんてしていたら古臭い人間だと馬鹿にされる。よく原理はわからないが、音漏れすることのない、イヤホンに代わる代物が出てきた。しかし、僕は頑なに安い、おまけに有線のイヤホンを使っている。

 

最近は「脳波に直接語りかける」通信手段を開発中らしい。

5Gで脳に悪影響が…などと言われていた時代なんて可愛いもんだ。脳波に直接語りかけて常人が常人でいられるわけがない。

 

僕は相変わらず、2020年のような生活を続けている。

ただただ怠惰に、仕事をテキトーにこなし、エクセルをいじり、家に帰ったら携帯で「人間」と喋り、家事をして、寝る。

 

家事ももう今やほとんど機械やAIができる時代なのだが、いかんせん値が張る。

だから人間が2020年の人間らしくいられるよう、最後の抵抗として家事を続けている。

 

 

僕の仕事は、詳しくは言えないけど、機械のスイッチを入れて、機械が出した結果をチェックする仕事。

簡単なお仕事。月給は2020年と変わらなかった。

 

それでも仕事がないよりはマシ。無敵の人は増え続け、空き巣なんかも多いので、2重ロックしても足りないぐらいだった。

 

2025年には「令和のラダイト運動」が起きたが、嘲笑されて終わった。そういう時代なのである。

 

資本家?シフォン家?いるのかなあ。機械に全てを管理され、人間は機械のスイッチを入れ、コードを組むだけの存在。

この話もまた今度にしよう。

朝8時で35℃の暑さが脳を茶碗蒸しに変える。

熱中症なんて当たり前なので、夏場は営業しない店も増えてしまった。

 

そんなところかな。

まだまだ2020年を思い出せば変わったところなどたくさんあるだろうけど、気づいたところを少しだけ。

僕は2030年も生きたくはなかった。